医療法人社団 参英会 岩佐耳鼻咽喉科

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滲出性中耳炎とは

滲出性中耳炎(中耳カタル・耳管カタル)とは、中耳に液体が貯留している状態を言います。液体が貯留する結果、難聴・耳閉感・耳鳴り、自分の声が耳に響くなどの症状が起こります。

図:耳

耳は外耳、中耳、内耳の3つの部分に分けられます。外耳からの音を内耳に伝える重要な役割を持つ中耳は、鼓膜、耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アプミ骨)、耳管、乳突蜂巣からできています。中耳は一つの部屋(中耳腔)で、一定の空気で満たされています。中耳腔の換気は、鼻咽腔(鼻の奥で、のどの上の部分)に開いた耳管によって行なわれています(右図)。

高層ビルのエレベーター昇降時や、飛行機の離着陸時に「耳がつまった」感じ(耳閉感)を経験されたことがあると思いますが、その時あくびをしたり、つばを飲み込んだりすると、耳のつまった感じがとれるのは、耳管が開いて中耳の空気圧を調節するからです。

カゼをひいて、のどや鼻の炎症が耳管に及ぶと耳管炎という状態になり、耳管の粘膜が腫れて中耳の換気が十分に行なわれなくなり、中耳腔の空気圧が大気圧と比べて陰圧となり鼓膜が奥に引っばられ、耳が塞がった感じや難聴、耳鳴りなどの症状を起こします。耳管の炎症がさらに中耳腔まで侵人すると中耳炎となり、中耳粘膜の炎症により中耳腔に分泌液が貯留します。細菌の力が強く分泌液が膿性で多量の場合、急激に鼓膜が外側に押されて真っ赤に腫れ上がり、強い痛みが生じます。これが急性中耳炎と言われる状態です。細菌の力が弱かったり、無菌の場合は水様性の液が貯留し、鼓膜はあまり変化なく痛みもほとんどありませんが、難聴や耳閉感・耳鳴り、自分の声が耳に響くなどの症状を訴えます。この状態を滲出性中耳炎と言います。

滲出性中耳炎の発生

滲出性中耳炎は小児と老人に多く見られます。

小児の場合、耳管が太く短かく直線的なため、カゼなどの際、のど・鼻の炎症が中耳に侵入しやすいのと、アデノイドや扁桃が生理的に大きいため、炎症を繰り返しやすく耳管を圧迫しやすくなっているためです。とくに幼稚園から小学校低学年の小児に高率に認められますが、耳痛がないうえに、子供ですから難聴とか耳閉感などの症状を訴えないため見逃されがちです。テレビの音を大きくする、後ろから呼んでも返事をしないなどに気付いたら要注意で、専門医の診察を受ける必要があります。

図:アデノイド・扁桃

一方、老人の場合、年齢的に耳管の機能が低下して滲出性中耳炎を起こしやすいといわれています。聴力検査および外耳から圧を加えて鼓膜の動きを検査(ティンパノメトリー)することにより、内耳に液体が貯留しているか否かを知ることができます。また、鼻から耳管の入口に金属製の管(カテーテル)をあて空気を中耳に送り込んで、その時の音により、耳管の腫れ具合や液体貯留の有無を知ることができます(耳管通気)。

滲出性中耳炎の原因

滲出性中耳炎は次のような場合に起こります。

  1. 急性中耳炎を中途半場に治療した場合
  2. 耳管が開いている後鼻腔にあるリンパ組織(アデノイドや耳管扁桃)が大きく、耳管を圧迫したり、アデノイドや扁桃の慢性炎症が耳管を介して中耳の炎症を反復して起こす場合
  3. もともと耳管が狭い人や、カゼ気味の時に飛行機やダイビングなどで急激な気圧の変化を受け、中耳腔の空気圧の調整がうまくいかない場合など

滲出性中耳炎の治療

何はともあれ中耳腔に溜まった貯留液を排除させることです。鼓膜を通して細い注射針で抜き取ったり(鼓室穿刺)、鼓膜切開をして排液させます。長期間中耳腔に溜まった貯留液は、粘性がたかく「ねばっこく」なり 穿刺ではぬけきらないことがあります。排液後、薬を中耳腔に注入し洗浄することもあります。鼓膜の表面を麻酔するため痛みはほどんど感じません。

また、前述したように鼻やのどの炎症が潜在する場合がほとんどですから、鼻やのどの治療も必要です。また、耳管通気により中耳腔の陰圧を解消しておく必要もあります。強く鼻をかむと鼻やのどの細菌をさらに中耳に送り込む結果となりますので注意して下さい。

図:鼓室内チューブ留置術

中耳病変が慢性的となり、上記の治療を繰返しても液が反復して貯留してくる場合は、さらに積極的な治療が必要となります。それは、中耳腔の排液と換気を目的として鼓膜にチューブを挿入する方法です(鼓膜チューブ挿入術)。 鼓膜切開をして液体の排泄後、そこに小さなチューブを差しこみ固定させます(左図)。

チューブ挿入期間中は、鼻およびのどの治療、通気などを行います。チューブは数ヵ月後、自然に押し出され脱落する場合がほとんどですが、チューブがいつまでも抜けてこない場合は抜去する必要があります。チューブの抜けた穴は、自然にふさがる傾向がありますが、外来できちんと観察する必要があります。チュープが挿入されている間は、感染防止のため耳の中をいじったり、水を入れたりしないよう注意します。

小児の場合、アデノイド肥大が関与することが多いので、チューブ挿入と同時にアデノイド切除を行うことがあります。これらの治療で治癒することが多いのですが、残念ながら再発を繰り返す場合も少なからず認められます。小児の滲出性中耳炎は、10歳前後で自然に治癒する場合が多いので、繰り返しやすい場合はそれまで定期的に診察し、分泌液が溜まれば、その都度排除していく必要があります。

岩佐耳鼻咽喉科 医学博士 岩佐英之

滲出性中耳炎を放置すると、鼓膜や耳小骨が癒着し聴力が悪化していく状態(癒着性中耳炎)やコレステリン肉芽腫症、および慢性中耳炎の一つである真珠腫性中耳炎に移行する可能性が大きいので、滲出性中耳炎のうちにしっかりと治療しておきたいものです。

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